お知らせ & コラム
2026.04.24
本日は、Atelier ShiningTailがこれまで触れてきたマエストロ Marco Nolli氏の仕事と魅力について、ご紹介させていただきたいと思います。
Marco Nolli氏は、イタリア・クレモナに工房を構え、ヴァイオリンからコントラバスに至るまで幅広く手がける製作家です。
なかでもコントラバスの分野においては、国際的にも高い評価を受けるマエストロとして知られています。
また、クレモナではこれまで数多くの日本人のお弟子さんを育ててこられました。
その穏やかで親しみやすい人柄に加え、会話の端々にユーモアがあり、工房を訪れるたびに多くの学びと発見を与えていただいております。
とりわけ低音楽器に関する深い知識と経験には確かなものがあり、製作から調整、修理、修復に至るまで、幅広い視点から的確に導いてくださいます。

「※写真をタップしていただくと、拡大してご覧いただけます。」
トリエンナーレ審査時の写真
工房を訪れるたび、まず圧倒されるのは、修復のために並ぶ何台ものコントラバスです。
その光景からは、Marco Nolli氏が低音楽器の世界で積み重ねてこられた経験の深さが、工房の空気そのものを通して伝わってきます。
当Atelierではヴァイオリンの製作もお願いしておりますが、その仕事に触れるたび、確かな仕事ぶりが感じられます。
なかでも印象的なのは、楽器の表情を大きく左右するアーチの扱いです。強く主張するものではなくとも、そこには静かな個性と美意識が宿っているように思います。
特にパーソナルモデルには、コントラバス製作家として培われた感覚や美意識が反映されており、全体の佇まいにも独自の魅力が感じられます。
また、私がとりわけ惹かれているのは、木材に対するこだわりです。
工房の倉庫には数多くの木材が大切に保管されており、その蓄えからも、長い時間をかけて素材と向き合ってこられたことが伝わってきます。
それぞれの木の個性を見極め、ふさわしい楽器へと生かしていく姿勢に、素材への深い理解と誠実さを感じます。
工房には、確かな仕事とともに、素材を楽器として形にしていく感性が静かに息づいていました。
そうした仕事に触れるたび、Marco Nolli氏が素材と音に深く向き合うマエストロであることを強く感じます。
演奏家にも製作家にも満足してもらえる作品を生み出したいという願いは、私が若い頃から抱いてきたものです。一本の木から楽器が生まれていくということは、私にとってはとても不思議で、同時に強く心を動かされる体験でした。そして今でも、ひとつの楽器を作り終えるたびに、その音を聴く瞬間を待ちきれないほどです。
私は時に自分に厳しく、楽器の良いところよりも、欠点のほうが耳に入ってしまいます。だからこそ、それをどう改善できるかを常に考え続けています。
私が日本との仕事を始めたのは1980年代でした。当時はまだ製作家の数も少なく、商人たちはクレモナのヴァイオリンを数多く求めていました。私は彼らのために楽器を作り始め、そこから関係が広がっていきました。
やがて優れた音楽家が増えるにつれ、求められる音もより洗練され、より深いものへと変わっていきました。そこで私は、音そのものに向き合うことを決意し、よく乾燥した木材を探し、響板の調整に細心の注意を払うようになりました。
さらに、ヴァイオリン博物館の研究センターとともに行った研究も大きな成果を残すことができました。ストラディヴァリ、グァルネリ、アマティ、ルッジェーリ、ストリオーニ、チェルーティ、そして多くの同時代の製作家たちの楽器を分析し、そこから多くを学びました。
今日では、私自身の性格を映し出すような個性的なモデルに基づいて楽器を作ることを心掛けています。これはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスのすべてに共通しています。
そして最後に、良いセットアップが作品に“冠”を添えるように、その完成を決定づけます。質の高い木材による駒の選択、求める音色に応じた弦の選択。それらすべてが、音を形づくる大切な要素です。
これらすべては、40年以上にわたる経験、芸術、音楽、そして尽きることのない好奇心の結晶です。
日本の演奏家と長く関わるなかで感じてきたのは、演奏家の成長とともに、求められる音もまたより洗練され、より深いものへと変わっていくということでした。だからこそ私は、楽器が単なる物ではなく、演奏家とともに育ち、時間の中で価値を深めていく存在であってほしいと願っています。
100年後、200年後、あるいは1000年後。かつてそうであったように、そのときにはすべてが成し遂げられているのかもしれません。
私がはじめてMarco Nolli氏の工房を訪れたのは、2023年11月のことでした。
その際、実際にヴァイオリンを弾かせていただく機会があり、そこでまず心を動かされたのが、低音の豊かさでした。
ヴァイオリンは、高音の魅力が印象に残りやすい楽器である一方で、低音にやや物足りなさを感じるものも少なくありません。
しかし、Marco Nolli氏のヴァイオリンは、G線を弾いた瞬間に深みのある響きが自然に立ち上がり、強く印象に残りました。
E線からG線までのつながりも非常に滑らかで、全体としてのバランスの良さ、とりわけ低音弦の充実には大きな魅力を感じました。
また、ヴィオラにおいても、低音の厚みだけでなく、高音域の扱いに独自の魅力があります。
一般にヴィオラではA線がやや重たく感じられることもありますが、Marco Nolli氏の楽器にはその窮屈さがなく、ヴァイオリンを思わせるような伸びやかな響きが備わっているように感じます。
低音の豊かさと高音域の自然な歌いやすさが両立していることは、非常に印象的でした。
私自身、これまで多くの展示会でさまざまな楽器に触れてきましたが、その中でもMarco Nolli氏の楽器には、私が理想的だと感じる魅力があります。
だからこそ、この仕事を日本でご紹介したいという思いが自然と生まれました。
さらに、私が深く信頼しているのは、音色だけではありません。
Marco Nolli氏は、製作における考え方の面でも非常に共感できる部分が多く、日本の気候や四季の移ろいまで意識しながら楽器づくりに向き合ってくださいます。
湿度や温度の変化が大きい日本において、そのような視点を持って製作していただけることは、大きな安心や信頼につながります。
単に優れた音色を持つだけでなく、日本の風土の中で長く寄り添っていける楽器としてご紹介できること。
それが、Atelier ShiningTailがMarco Nolli氏の仕事を日本でお伝えしたいと考える理由です。
Photo © Atelier ShiningTail