お知らせ & コラム
2026.08.25
マエストロ Vladimiro Cubanzi氏と初めて出会ったのは、2023年11月26日。
私にとって初めてのイタリア滞在、その最終日のことでした。出会いのきっかけは、Cremonaで活動されている写真家の方からのご紹介でした。
実際にマエストロの楽器を取り扱い始めたのは、2025年春、私が4回目にイタリアを訪れた頃です。
最初に楽器を手にしたときのファーストインプレッションが非常に良かったことに加え、何度か話を重ねる中で、Cubanzi氏と私には考え方に多くの共通点があると感じました。
特に、職人としての感性、エンジニアとしての考え方、そしてビジネスに対する視点です。
楽器について話す中でも、感覚だけではなく論理的に考える姿勢が、私自身の考え方と近いと感じました。また、楽器を作ることだけでなく、その楽器をどのように演奏家へ届けていくかという部分についても、共感するところが多くありました。
こうした楽器そのものだけではない考え方への共感も、Cubanzi氏の楽器を取り扱い、日本で紹介していきたいと思った大きな理由の一つです。

マエストロ Vladimiro Cubanzi氏は、とても気さくで温かい人柄の方です。工房にもその人柄が表れていて、全体的に温かく居心地の良い雰囲気があり、お客様が訪れることも多く、いつも活気を感じます。
アペリティーボもお好きで、人と過ごす時間やコミュニケーションを大切にされている印象があります。一緒にいると、人とのつながりや、そこから生まれるエネルギーを大切にしている方だと感じます。また、職人としての感性だけでなく、エンジニアとして物事を考える一面を持っているところも、Cubanzi氏の特徴の一つです。
楽器について見ると、他の多くのマエストロと同じように、工房にはたくさんの木材がストックされています。その中には、一般的なものだけではなく、少し変わった木目や面白い表情を持つ木材もあり、今回掲載している写真の木材もその一つです。
また、フィッティングパーツや細かな部分にもこだわりがあり、楽器全体だけではなく、細部にもCubanzi氏らしい個性を感じることができます。
プライベートでは、日本人の奥様と2人のお子様がいらっしゃり、日本とも深いつながりがあります。また、とてもご家族を大切にされており、Atelierにはご家族の写真も飾られています。こうしたところからも、Cubanzi氏の温かい人柄を感じることができます。そして日本の食べ物も好きで、特にお気に入りなのが月見つくねと明太子。こうした親しみやすい一面も、マエストロ Vladimiro Cubanzi氏の魅力の一つだと思います。


マエストロの楽器にはそれぞれテーマがあり、楽器の中には、そのテーマに合わせた絵が描かれています。現在、オーダーしている楽器には、クレモナのシンボルでもある Torrazzo(トラッツォ)鐘楼 の絵を描いていただいています。
そこで今回、なぜ楽器の中に一つひとつ異なる絵を描いているのか、マエストロにお聞きしました。
理由は、大きく二つあるそうです。
一つは、楽器のコピーや複製を防ぐためです。
それぞれの楽器に異なる絵が描かれていることで、その楽器がマエストロ自身の作品であることを示す一つの証となり、オリジナリティを守ることにもつながっています。
そしてもう一つは、一本一本の楽器に、それぞれの個性やアイデンティティを持たせたいという思いからです。
マエストロは楽器ごとに名前を付け、その名前から思い描いたイメージや物語を、絵として楽器の中に描いています。
一見すると同じように見える楽器でも、まったく同じものは一つとしてありません。
それぞれに異なる個性や表情があり、その楽器だけの物語があります。
そうした一本一本の個性や物語を、より深く楽器に刻み込むために、マエストロは楽器の中に絵を描いているそうです。

私が楽器作りで一番大切にしているのは、全体から感じられる雰囲気です。もちろん、細部の技術や精度も非常に重要ですが、私はそれ以上に、楽器全体が持つ美しさやバランス、そして個性を大切にしています。クレモナで学び、イタリアの芸術や文化に触れる中で培った感性を生かしながら、技術だけではなく、見た人や弾く人の心に自然に何かを感じさせるような楽器を作りたいと考えています。細部の積み重ねが、最終的に一つの美しい「雰囲気」になる――それが私にとって最も大切なことです。
何か特別に大きな挑戦をしたいというよりも、私は一本一本の楽器を作る中で、いつも小さな新しい試みを続けていきたいと思っています。楽器作りでは、ほんの少しの違いから新しい発見が生まれることがあります。その小さな発見が次の製作につながり、自分自身を助けてくれることも少なくありません。
私にとって挑戦とは、大きなことを一度に変えることではなく、毎回の製作の中で少しずつ新しい可能性を見つけていくことです。これからも、そうした小さな挑戦と発見を大切にしながら、一本一本の楽器と向き合っていきたいと思っています。
私の楽器を検討してくださっている方へ、ぜひお伝えしたいのは、私は「今」だけでなく、100年後も美しく、しっかりと鳴り続ける楽器を目指して製作しているということです。
一本一本に魂を込め、その楽器が生まれた瞬間から、長い時間をかけて成長していくことを思い描いています。
私が完成させた楽器を音楽家の皆様へバトンタッチし、そこからは演奏する方とともに音を育て、歳月を重ねながら、その楽器だけの個性や魅力を深めていく。そんなイメージを大切にしながら、いつも製作しています。
楽器は、私一人の手で完成するものではなく、音楽家と出会い、奏でられ、長い年月を共にすることで、本当の意味で育っていくものだと考えています。私の作る一本が、その方の音楽人生に長く寄り添う存在になれば、これほど嬉しいことはありません。
ウラディミロ・クバンツィは1978年、旧ソビエト連邦に生まれ。幼い頃から家族の影響もあり音楽に強い関心を持ち、一般教育と並行して音楽学校でヴァイオリンとピアノを学ぶ。その頃からヴァイオリン製作にも興味を持ち、少しずつその世界に近づく。
音楽と楽器への好奇心は次第に深まり、電気通信工学およびコンピューターサイエンスを学んで大学を卒業した後、2000年にクレモナへ移り、世界的に知られるヴァイオリン製作学校 IPIALL A. Stradivari に入学。アレッサンドロ・ヴォルティーニ、ジョルジョ・スコラーリ、ボリス・スヴェルドリクの各マエストロの指導を受け、2005年にヴァイオリン製作者としての資格を取得。
卒業後はクレモナの工房で製作経験を積みながら、自らの製作技術を磨く。2009年にはクレモナの中心部に自身の工房を開き、2015年にはより広い工房とショールームを備えた現在の場所へ移転。現在は、伝統的なクレモナの製作理念と技法を大切にしながら、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを製作。
2008年にはイタリア・ヴァイオリン製作者協会(A.L.I.)に加盟し、2009年にはクレモナの「アントニオ・ストラディヴァリ」製作者組合に加盟。
また、クレモナの「Mondomusica」、モスクワの「Musicmesse」、上海の「Music China」など、数多くの国際展示会に参加し、クレモナで開催される国際製作コンクール「Triennale」にも出品。現在、彼の楽器は世界各地の音楽家に愛用されている。
Vladimiro Cubanziオフィシャルサイト
Casa del Violino Liuteria Cremona – Dreams Do Come True – I Sogni diventano Realtà